普段から手汗がたくさん出て気になっていたり、手汗が原因でトレーニングで思うようなパフォーマンスができないと悩んでいる方も多いのではないでしょうか。汗には体温調節という重要な役割がありますが、日常的にたくさん汗をかくのはもしかしたら「手掌多汗症」という病気が原因かもしれません。
多汗症は大人になってからでも発症することがあり、日常生活に大きな支障をきたしますが、なかなか相談しづらい症状でもあります。
この記事では手汗の悩みを解消するために、手汗をかく原因やセルフチェックの方法、治療法、さらにスポーツの時の手汗についても解説しますので、ぜひ参考にしてみてください。
高山ゆり子
薬剤師/WEBライター
薬学部を卒業後、薬剤師として調剤薬局に勤務。現在は薬局勤務のかたわら、WEBライターとしても活動。医療・健康分野で執筆を通して正確な知識と情報を届ける。YMAA認証マーク取得。
手に汗をかくのはなぜ?
人間は汗をかくことで気化熱を利用して体温を下げ、体が熱くなりすぎるのを防いでいます。また、緊張したりストレスを感じたりした時や、香辛料などの刺激物を食べた時も汗をかきます。
手に汗をかく理由は、手のひらに分布している交感神経の働きが活発になっているためと考えられていますが、なぜ手だけに大量の汗をかくのか、そのメカニズムは解明されていません。また、遺伝的要素も指摘されており、幼少期から手汗が出はじめる場合もあれば、成人してから自覚する場合もあります。
汗をかく仕組み
汗は皮膚にある汗腺から分泌されます。汗腺にはエクリン腺とアポクリン腺があり、エクリン腺は全身のほとんどに分布し、アポクリン腺は脇や乳首、肛門の周囲など限られた場所に分布しています。
皮膚の表面温度が上がると脳にその情報が伝わり、脳の視床下部から汗腺に汗を出すように命令がくだされます。これにより汗が分泌され、体温を下げるのです。
緊張やストレスなど精神的な刺激が加わった時の汗は、足の裏など限られた場所に出るのが特徴です。
手汗が多くなる理由
汗は自分の意志ではコントロールできない自律神経に支配されています。
自律神経は交感神経と副交感神経からなり、これらがバランスを取りながら24時間365日絶え間なく働き続けています。日中の活動している時に活発になるのが交感神経で、夕方頃から活発になるのが副交感神経です。
手汗は交感神経の働きが一時的に活発になると分泌され、通常その後は副交感神経が働きはじめ、緊張や興奮を鎮めて汗も抑えられます。
しかし、手汗を多くかく人は交感神経が活発に働き続け、暑さや緊張を感じた時以外でも手汗を大量にかいてしまうのです。
手汗が多い主な原因
汗が出る主な原因は3つあります。
- 温熱性発汗
- 味覚性発汗
- 精神性発汗
温熱性発汗は暑さを感じた時や運動で体温が上った時に、上昇した体温を下げるための発汗です。この汗は全身に分布するエクリン腺から分泌され、無色無臭でサラサラしていることが特徴です。
味覚性発汗は香辛料など刺激物を食べた時にかく汗で、顔を中心とした上半身で発汗します。この汗の役割はまだ解明されていません。
精神性発汗はストレスや緊張などの精神的な刺激が原因となりかく汗です。手のひらや足の裏、脇など限られた場所から発汗するのが特徴です。
手汗の原因は精神性発汗であるとされています。
手汗多汗症
大量に汗をかく疾患に多汗症が知られていますが、その中でも手のひらだけに大量の汗をかく疾患を手掌多汗症(しゅしょうたかんしょう)と言います。
人は体温が上昇した時や緊張した時に汗をかきますが、手掌多汗症では緊張していない時や涼しい時でも大量に汗をかくのが特徴です。汗腺そのものに異常は見られず、汗の量は湿っている程度からポタポタと滴り落ちるくらいまでと、さまざまです。
交感神経の活発性やストレス
精神性発汗は緊張やストレスで交感神経の働きが活発になることが原因です。
人間はストレスや緊張で自律神経のバランスが乱れ、交感神経の働きが活発になると発汗します。自律神経は交感神経と副交感神経の2つからなり、自分の意志でコントロールすることはできません。
手汗が多い人は、何らかの理由で交感神経の働きが活発になり続けている、と考えられています。
手汗のチェック方法
自分の手汗が多汗症なのかチェックをする方法を紹介します。
セルフチェック
自覚症状に合わせて症状の進行を確認できます。以下でレベル3に近付く程、症状がひどいことを示します。
レベル1 | 触ると皮膚がしっとりして湿っている、もしくは皮膚が濡れてツヤツヤして見える 触ると汗ばんでいることがわかるが、見た目の変化はほとんどない |
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レベル2 | 皮膚の上で汗が水滴を作っているが、流れ落ちる程ではない |
レベル3 | 水滴となった汗が皮膚から流れる |
手掌多汗症の症状レベル
手掌多汗症の重症度はHDSS(多汗症患者重症度評価尺度)により以下の4つに分類されます。*1*2
- 発汗はまったく気にならず、日常生活にまったく支障がない
- 発汗は我慢できるが、日常生活に時々支障がある
- 発汗はほとんど我慢できず、日常生活に頻繁に支障がある
- 発汗は我慢できず、日常生活に常に支障がある
3.と4.は重症の指標となります。当てはまる場合は、医療機関の受診を検討してみても良いでしょう。
医療機関で行う検査方法
医療機関では問診で症状を聞き取った後、以下のいずれかの検査を行って診断します。
ヨード紙法(汗滴プリント法)
ヨウ素で茶褐色に染めたヨード紙を用います。発汗部分が紫色から黒色に変化し、症状の進行具合を確認できます。
重量計測法
あらかじめ重さを計った紙に5分間手を密着させ、その後もう一度重さを計り、前後の差を発汗量とする検査です。簡単に検査ができる反面、室温や湿度などに影響を受けやすい欠点があります。
換気カプセル法
手をカプセルで覆い湿度を測り、発汗量を計測します。多汗症の程度や発汗部位の左右差などがわかります。
手汗の根本治療
手掌多汗症の根本治療には、内服薬や外用薬、注射薬などがあります。
抗コリン薬(内服薬)
多汗症で使われる内服薬は抗コリン薬です。交感神経の働きを活発にさせるアセチルコリンをブロックして発汗を抑えます。副作用で喉が乾いたり、尿量が減ったりすることがあります。
ボトックス注射
ボツリヌス毒素には交感神経の末端で発汗を促す神経伝達物質「アセチルコリン」の放出を抑える働きがあります。ボトックス注射でアセチルコリンの分泌を抑制することで、過剰な汗の分泌を抑えることができるのです。多汗部分にのみ注射をします。
塩化アルミニウム製剤(外用薬)
塩化アルミニウムを手のひらに塗布し、汗の出口を塞いで発汗を抑えます。副作用は痒みやヒリヒリ感です。ローションや軟膏などがあります。
水道水イオントフォレーシス療法
手のひらを水道水に浸し、電流を流す方法です。この治療では、電流を流すことで発生する水素イオンが汗の出口を塞いで発汗を抑える、と考えられています。
手術
手術では発汗の原因となる神経の部分切除を行います。内科的治療では効果が得られず、生活に大きな支障をきたす重症な場合のみ検討されます。
スポーツ時の手汗
スポーツの時に手汗をかくと、パフォーマンスが下がる原因にもなります。
ここではスポーツ時の手汗について、原因と予防法を解説します。
スポーツをする時に手汗をかく原因
スポーツをする時にかく手汗の原因には「温熱性発汗」と「精神性発汗」の2つがあります。
運動で上昇した体温を調節するための発汗が温熱性発汗です。頭部や首からの汗が腕を伝って手まで滴り落ちることもあります。
精神性発汗は緊張や不安により自律神経のバランスが崩れ、交感神経が活発になると起こる発汗です。スポーツでは「上手く行かなかったらどうしよう」「ケガをしたら危険だ」などの精神的な緊張が手汗の原因となってしまうのです。
スポーツでの手汗を予防する方法
スポーツで手汗を予防する方法は以下の3つが挙げられます。
- 規則正しい生活や十分な練習で緊張や不安を減らす
- 市販のアルミニウムローションなどの制汗剤を使う
- 医療的治療を受ける
規則正しい生活や十分な練習は精神性発汗を減らすのに効果的です。根本的な解消を目指す場合は、病院を受診することも検討すると良いでしょう。
自分でできる手汗解消法
軽度の手汗はセルフケアで症状を軽くしたり、抑えたりできる場合があります。
- 規則正しい生活
- ストレス解消を心がける
- 汗腺を塞ぐローションを使う
規則正しい生活
精神性発汗で起こる手汗は、自律神経のバランスが乱れて交感神経が活発になることが原因とされています。自律神経のバランスを整えるには規則正しい生活が重要です。栄養バランスの取れた食事や質の高い睡眠でバランスを整えましょう。
ストレス解消を心がける
ストレスに長期間さらされると、交感神経が活発になり続けることにより、手汗の量が増えます。ストレスケアはとても大切です。普段からこまめなストレス解消を心がけましょう。
汗腺を防ぐローションを使う
薬局やドラッグストアで購入できる制汗剤を利用するのも効果的です。汗腺を塞いで発汗を抑える効果が期待できます。痒みやかぶれが出たら使用を中止してください。
一瞬で手汗を抑える対処法についてはこちらも記事も参考にしてください。
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まとめ
手汗をたくさんかくことは生活に支障をきたし、特にスポーツでは思うような結果が出せないだけでなく、事故の原因になることもあります。
スポーツでかく手汗の原因は、上昇した体温を下げる温熱性発汗と、緊張や不安から交感神経が優位になることでかく精神性発汗です。手汗対策は症状が軽度であれば制汗剤や生活習慣の改善、十分な練習で緊張や不安を減らすなどの方法があります。
重症な手汗を根本的に解消するのであれば、医療機関の受診を検討してみてください。
<参考文献>
*1 藤本智子 ほか: 日皮会誌 2023; 133(2): 157-88.より改変
*2 Strutton DR, et al: J Am Acad Dermatol 2004; 51(2): 241-8.